構成を練り上げる魔法のカード遊び

こんにちは、フルタニです。放送局で番組づくりをしてました。

ロケから戻ると編集が始まります。編集に取り掛かるときはいつも憂鬱でした。使える素材は手元にある映像だけです。ロケ前に考えた理想の構成と撮れた現実が一致したことはほとんどありません。「あれも撮れてない、これもない」と、ラッシュを見れば見るほど絶望が広がります。これで放送に漕ぎ着けることができるのかと悩んでばかりいました。

ようやく気付いたのは、構成は事前準備であり実践手順であり、解決手段であると言うことでした。

番組は構成が命

構成は建物に例えると青写真や設計図のようなものです。

軸になる部分がぶれていては事故に繋がるところはよく似ています。

設計図を作る建築士が優先するのは柱や梁にかかる複雑な荷重。鮮やかなデザインや装飾は二の次です。何が起きてもビクともしないように、建物の構造を計算して作ります。

映像作品は時間の芸術と言われます。後戻りできない時間の制約の中で、視聴者にわかりやすく情報やメッセージを伝えるためには、練りに練った構成が欠かせません。

名シナリオ・ライターと呼ばれた橋本忍は、”構成の鬼”と呼ばれていました。原稿用紙に書いた作品の流れをさらに小さな枠に分割し、その枠をなんども並び替えて理想のストーリー展開を模索したと言います。

人物の設定や、動き。話の展開。物語の伏線など、作品を構成する要素を部品のように分解すると、前後に置き換えがしやすくなります。当然前後に置き換えることでそれまで要素が持っていた意味は変わります。

例えば場所の紹介に使っていた遠景の映像を作品のラストカットに持ってくると違った意味を持ちます。美味しそうな果実の前に飢餓に苦しむ人々のカットを置くと真逆のイメージが湧いてくるようなものです。

橋本忍は一度書き上げたシナリオに満足せず、ギリギリまでストーリーをひっくり返せないかと考えていたそうです。

黒澤明は「シナリオは、頭で書かれたシナリオと、足で書かれたシナリオがあるが、足で書かれたものの方が長持ちするよ」といいます。

アニメーション監督の片渕須直さんは原作をアニメ化するにあたり、原作に描かれた広島を足で取材して歩きました。ノンフィクション映画の取材のように証言を集め、資料を収集し克明な世界観をまとめた上でアニメという空想の世界を描きました。

「この世界の片隅に」ふたたび | 気持ちのスイッチ

このことからわかるように、構成づくりの正解はやすやすとは見つからないと言うことです。撮影された映像の中には、自分が気付いていないアイデアが潜んでいます。

正解にたどり着きたければ悩み抜くしかなく。それに気づくことに構成のもつ魔力があります。

構成を練り上げる魔法のカード遊び

シナリオ・ライターの橋本忍さんが構成づくりに活用したのは原稿用紙でした。放送局の場合はディレクターを中心にスタッフが分業して番組制作に当たります。そのため大勢の人が情報を共有するスタイルが発達しました。

その象徴が”ペタペタ”と言う文房具です。

撮影したシーンがどんどん増えてきて番組予定尺(内容時間)を超過するころになると、登場する大きな付箋紙のことを言います。商品名は「ポストイット」。名刺大のカードに、カットの内容やコメントの要旨などをメモし、畳大の白板に貼り付けていきます。

このカードを撮影した映像やインタビューをシーンごとに細かく記入して白板に並べます。白板を見ることでスタッフは時間軸を共有することができます。カードは白板から溢れ出すほどの分量になりますが気にせずに並べ替え、話の流れを議論します。

そうすると、不思議なことに冗長な説明は省略され、最初のうちは見えなかった話の展開が見え始めます。何気ない映像は物語のヒントを暗示する伏線に姿を変え、情緒ある風景は制作者が伝えたいメッセージを乗せるカットに姿を変え始めます。

ペタペタをもとに繋がった映像は、完成予定の数倍の尺(内容時間)になります。しかし、流れがカード上に整理されることで足りないシーンや、構成するために必要な情報が補強され、さらに分かりやすい論理のながれが見えてくるのです。

カードの構成がまとまったところで、実際の編集作業がスタートします。これを荒編集と言います。

構成の魔力

番組の目的は映像の持つ訴求力を最大限に引き出すことです。活字と違い時間と言う制約があります。展開する映像の順序が意味を持ちます。コメントできる文字数は限られています。セリフ一つとっても組み立てが不可欠です。テンポやリズムなど論理だけでは解決できない情緒的な面にも配慮しなくてはなりません。

良い構成は一生懸命考えただけでは出てきません。作っては壊し、また作っては壊しといったこどもの遊びのような積み重ねの上に、ひょいと現れる偶然の気づきのようなものなのかもしません。




ABOUTこの記事をかいた人

元テレビ番組制作者。再就職→窓際→WEBコンテンツ制作で復活。64歳にして動画制作に自分の価値を見いだしました。目指すのは地域に根ざした"伝える系"の動画制作です。スキルアップと感謝の気持ちを持ちながら楽しく生きていきます。編集のお手伝いも始める予定です。