
動画制作に関連する情報は、ネット上にあふれています。
当ブログでも「動画編集」や「撮影」などの記事で、動画制作の基本的な知識と技法の数々を紹介していますが、めざすのは映像という道具を使って新しい情報を発掘しわかりやすく視聴者に伝えることです。
そのためには社会の動きに対して敏感であり、問題意識を持つことが欠かせません。メディアで伝えられている事象はすべてではなく、自分がその現場に立ってみると新しい発見が隠れているからです。
社会の動きをもっと詳しく勉強したいなら、書籍を一冊読むことをオススメしています。
しかし、初心者の方は、どの本を選べばいいのかなかなか分からないですよね。
というのも、書店の店頭に並ぶ新刊本の数は膨大です。出版不況と呼ばれる日本ですが、世に出回る本は数多く良書であっても類書の中に埋もれてしまうからです。
番組制作をはじめてみて分かったのは、番組とはメッセージを伝えるための手段です。もちろん正確な事実をもとに制作しなくてはなりませんが、「だから何なの」と問われたときに答えるものを持っていないと悲劇です。
手に入れた事実に光りを当てたり、様々な角度から見つめていくうちに、「なるほどそうだったのか」とかんじるときがあります。その気づきこそが自分のメッセージです。
このメッセージは世界に一つしかありません。一つしかないメッセージだからこそ、量産された情報にまさる価値を持ち、人の中に深く刺さることができるのです。

とはいっても、初心者のうちは溢れ出る情報の中から価値ある情報を見つけ出すことは困難です。取材をしようとしても何から手を付けていいのか、誰を訪ねたらいいのか迷うばかりです。
そんなときは、「なるほどそうだったのか」と納得できる答えが書いてある本を読むことです。
本の中には裏付けとなる証拠に乏しい”薄っすい本”もあります。そんなときは書評などを頼りに選ぶと中身のある本に出会う確率が高まります。
動画制作にメッセージを込めることは、最初のうちは難しいかもしれませんが、続けていく内に必ず発見の喜びに出会うことができます。
そこで今回は、放送局で番組作りをしてきた私がおすすめの新刊本を紹介します。
目次
北朝鮮と観光
テレビで連日のように目にする「米朝関係」「拉致問題」。
いいかげん聞き飽きたし・・・。という半可通な読者におすすめしたい北朝鮮本です。
なにより着眼点が驚きです。それは北朝鮮が唯一ガードを緩め、情報を公開している「観光」という切り口から入ったこと。
北朝鮮研究者という立場をうまく利用して収集したデータが見るものの知的好奇心をかき立てます。
たとえば「平壌のインスタ映えスポット」って聞かされると、見てみたくなりませんか。
優れたドキュメンタリーも”切り口”が勝負。誰もが知っているようで知らない着眼点が見つかったら映像作品はもう半分できたようなものなのです。
チョンキンマンションのボスは知っている
香港・九龍にある雑居ビル「チョンキンマンション」。
マンションといっても一階は小さな売店が密集したいわば下駄履きアパートです。
現代の魔窟とも呼ばれるこのビルに世界各国から人が集まってきます。
国を追われた難民。商売で一旗揚げようと企む人。裏世界の住人。
曰くありげな人々が今日を必死に生きています。
「百%信頼できる人などいない。だが人を助けることは楽しいし、信頼できないからこそうまくいく」と住民はいいます。
絶対矛盾が集団扶助になる不思議な空間の文化人類学的ルポルタージュです。
人が住むところならどんな場所でもドキュメンタリー被写体になります。映像を撮れるか否かは取材者の努力次第。
相手の懐に入って、「こいつは信頼できる」と認めてもらうことができるかどうかが勝負です。
読み学びつなぐ
私たち市民は現実に何が起きているのかを明確に知ることです。そして、メディアや政治家に伝えていく。もう一つは「市民の歴史」を学ぶこと。アメリカでは「絶対に変えるのはムリだとおもわれてきたもの」がひっくりかえされてきました。
権力者に取り入れば取材や撮影は保証されます。しかしそれでは制作者は世の中の大多数を占める権力を持たない人たちに背を向けることになります。
権力は絶対のようでいて実はもろいものです。小さな利益に惑わされず、普遍的なものを目指すことはドキュメンタリー作りも同じです。
編集思考
東洋経済オンラインをビジネス誌系サイトNo.1に育て上げ、NewsPicks初代編集長であり、NewsPicksStudios CEOを務める佐々木紀彦さんが綴る「編集」の思考法です。
WeWorks、NetFlix、ディズニーなど具体例をもとに語るのは縦割りから横串への思考転換。
組織に属しながら番組作りをしているとどうしてもヨコの発想は育ちません。編集の視点で映像作品を一度壊してみると新しい見方が見えてくるかもしれません。
ユニークな企画を生み出したい人。イノベーティブな仕事をしたい人の方を推してくれる本です。
Third Way(サードウェイ) 第3の道のつくり方
「途上国から世界へ」を掲げてバッグブランド「マザーハスウ」を立ち上げた社会起業家の著作です。
先進国が途上国の人々を食い物にしている。途上国の暮らしは貧困であり悲惨だ。私のような昭和世代は昔の記憶をもとに世界のありようを理解しようとします。
しかし、世界の格差は昭和の頃より縮小しています。過去のイメージがアップデートされないまま残されているのです。
途上国に生産拠点という構図は植民地的発想のように見えて、実は新たな可能性を秘めていることを教えてくれます。
ビジネスとして世界に通じる社会起業をめざす箱啓発本であり経営本です。