即席で作るミニドキュメンタリー

こんにちはフルタニです。放送局で番組作りをしてました。

「安い、早い、うまい」とは、ある牛丼チェーンのキャッチコピーです。

東京で桜の開花宣言が出た3月21日。頼まれて映像クリップを作ることになりました。条件はまさに牛丼のコピー。お手軽に作れて、メッセージがこもった映像が欲しいという依頼です。

そこで作ったのがこちら。「土手の桜を見に行けば」という4分程度の映像クリップです。

撮影1時間、編集3時間でまとめました。

ほとんど即興のこのクリップ。いわばその場で作ったドキュメンタリーです。この映像を元に勘所をおさらいします。

企画

映像制作のカギを握るのは事前の準備と構成です。今回は場所と納期の縛りがあったので、その条件の中で仕上げなくてはなりません。テーマは「二子玉川の今」。さらに撮影機材はポケットに入るジンバルカメラ一台。ナレーションを入れる余裕は当然ありません。

幸いなことはテーマが限定されていたこと。自由なテーマを出題されたら企画選びに時間がかかりますが、エリアを限定されたことで絞り込みが楽になります。

  • テーマは狭く絞ることです

頭に浮かんだのは前日発表された東京の桜開花宣言でした。情報系企画でまず問われるのは「なぜ今なのか」。桜の開花宣言はタイムリーです。二子玉川の今を描くには桜を撮影することが決まりました。

  • 「なぜ今なのか」カギの一つ

次に問われるのが「何を描くか」です。どこで撮影するかも含め、場所を特定する必要があります。駅前の案内表示を見ると、中に「世田谷の名所・堤防の桜」というのが目につきました。ここに行けば何か見つかるかもしれません。

 

  • 何を描くか

映像が活字メディアと違うのは、動画の持つリアリティです。映像の持つ流れる時間表現をうまく使うことができれば、活字では陳腐に見える情報にも宝が眠っているかもしれません。特に感じたのは「堤防の桜」。多摩川に面した二子玉川には正規の護岸堤防があります。しかし、地図上の「堤防の桜」は護岸堤防から陸地に数十メートル入ったところに続いています。「なぜ堤防がこんなところにあるのだろう」そんな疑問を感じる視聴者も多いはずです。

  • 可能な限り深く掘ること

ここまで思いつくまでかかった時間は約五分。行こうと決めたのは駅前の看板を確認した時のことでした。しかし、この時点では最後の難問の答えは見えていません。その難問とは

  • 「何が言いたいのか」カギのひとつ。メッセージとはなんなのか頭の中を整理しましょう

メッセージと言われてもね。大体の人がそう考えます。実は私も駆け出しの頃先輩の制作者に何度となく問いかけられました。「何が言いたいの」。「言いたいことなんてあたらとっくに行っていますよ」と口にはできませんでしたが、悶々としたものが残りました。

てでもその悶々としたものが生まれたかどうかが大切なのだと、あとでわかるようになりました。

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リソース(機材)

映像制作は素材勝負。絵が撮れていないと始まりません。駆け出しの制作者の中には何を撮るか、何が撮れるかうやむやなのに、理屈ばかり多い人がたまにいます。そんな人に限って撮影の詰めが甘く、「あとはCGでなんとかなるだろう」なんて言葉を口にします。

手元にあるカメラはジンバルつきカメラ。広角レンズと自動焦点が持ち味。反面望遠機能はありません。このことから必然的にカットを編集して構成する手法ではうまくいかないことが推測できます。

  • 機材の持ち味を引き出す

しかし、ジンバルカメラには強い武器があります。NHKの番組に「世界ふれあい街紀行」という番組がありますが、その方法で撮影すればうまくいくかもしれません。このテレビ番組は同じような防振カメラを使って映像を長回しで撮影する独特のスタイルを取っています。カットを極力割らずに撮影するスタイルは強力な臨場感を見る人に与えます。

構成

「世田谷の今を飾る謎の桜を訪ねて、ワンカット長回しの臨場感で旅する」というコンセプトがまとまりました。ここまでで10分。

あっという間に企画が思い浮かぶのは、これまで見たり聞いたりしたきた経験値が物を言います。ついでにもう一つ付け加えると「ナンバーワンを探すこと」というキーワードがあります。人は一番という言葉にすごく弱いのです。

  • ナンバーワンを探す

撮影する対象と方法が決まっても慌てて撮影はご法度です。ここからが演出の出番。初めて映像を見る人に、最後まで楽しく付き合ってもらわなくてはなりません。

もちろん短いカットを立て続けに繋いで飽きさせない方法もあります。スマホ動画などわ見るとそうした演出があふれています。ただこの方法はシャープな映像や、インパクトのある映像がないと効果が出ません。喋りで繋ぐ方法もありますが、この方法はタレント性のある制作者のみ許された手法です。

  • ゲーム攻略のシナリオを真似る

そこで考えたのが、目的の桜をラスボスに見立てて、そのラスボスの根拠地にたどり着く過程でザコキャラを登場させるという流れでした。つまり、映像クリップで大きく取り上げる映像を合計三つ撮影するのです。私の頭の中に、かつて大ヒットした「だんご三兄弟」というキャラクターが浮かび上がりました。

  • 物語のだんごを作る

ロケ先である「堤防の桜」までの道すがら構成を考え、破綻がないか確認できたのは桜の姿を実際に目で見たときのことでした。かかった時間は30分。短い時間で構成が固まればかかるコストの目安も見えてきます。この場合出費は交通費だけでした。

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撮影

旅の始まりは駅前。終着は「堤防の桜」という撮影ルートが出来上がりました。たまに聞かれるのが、「番組の構成順に撮影しなくてはいけないのか」という質問です。正解は「撮影順はどうでもいい。こだわらない」です。

  • ロケの順番は変えられる

謎かけの質問の前に、正解をしっかり撮影して編集で逆転させる。一見ごまかしのような方法は番組制作の過程では問われることはありません。嘘を行ってはダメですが、許される演出はあります。「嘘をついている」と正直にコメントしない番組は世の中に溢れています。

撮影にあたって注意するのは編集です。編集上どうしても繋がらない映像ばかり撮ると苦労します。見ている人も白けます。セオリーに乗っ取り編集上必要な絵はしっかり撮りましょう。

  • お約束の映像がないとあとで死ぬほど悩みます

この映像クリップでいうと、オープニングの場面。それにエンディングです。オープニングは視聴者を掴んで離さないような魅力的な絵が役に立ちます。当然タイトルスーパーやエンディングクレジットが入るので、その位置も頭に入れて撮りましょう。

三つのだんごに当たるのは、それぞれの場所で咲いていた桜のアップです。よく見ると微妙な違いがあることがわかります。この差をうまく使って物語を作ることで店舗やリズム感も生まれます。

特に長いカット。桜の枝ぞいに舐めるように撮ったアップの映像は、視聴者それぞれが想像してもらうための余白としての意味を持ちます。

撮影中は時間の流れが早く感じます。じっくりカットを撮ったつもりでも試写して見ると必要な時間の半分しか取れていないことはザラです。特にカット頭やカット尻の静止した絵は15秒程度は欲しいものです。

ロケ現場であっても余裕がある限り撮影が終わったら試写をして必要な長さの絵が撮れているか確認しましょう。

編集

  • 繋ぎは何度も見直す

必要な映像が過不足なくあると、編集はよくできたパズルを解くような発見で満たされます。ロケ現場では思いつかなかったような物語が編集段階で発見できるのも制作者だけが味わえる喜びの一つです。

  • 順列組み合わせの中から隠れた真理を見つけだす

編集では予定の尺のおよそ三割増の長さに荒く編集します。通しで何回も試写を繰り返しながらシーンの前後を入れ替え話の流れをつくっていきます。

シーンを並べ替えながら同時進行で進めるのがコメントです。このクリップの場合時間とリソース(機材、要員も含む)の関係からナレーションは行いません。ナレーションまで手を広げるとコメントづくりにかなりの時間がかかるからです。

  • コメントは映像をなぞらず、独立させて書く

コメントづくりのポイントは、映像が語っていることは語らないことにつきます。桜の咲いている映像にかぶせるコメントは「桜が咲いています」ではなく「今年の開花は例年より五日遅れました」など、重複を避け、補足する情報で埋めるか、もしくはメッセージを載せることです。メッセージとは例えば「それが誰それの願いです」というようなものをさします。1)ここまで書いて思い出した先輩の言葉「番組制作はジャーナルでエターナル」。早く安く旨く(この場合は事実を正確に)を目指しながら、作品として永遠、つまり普遍性を目指せという意味なんですが、北極星を目指して旅をするような思いを感じます

  • 良い楽曲は作品を救う

ある程度物語が固まったところで選曲をします。ナレーションがない映像クリップですので意識の流れを引っ張り続けるため音楽の力を借りるのはやむを得ません。選曲がうまくいくと作品に違った輝きが生まれます。

  • 人の心に届くメッセージを叫ぶ

「真理は彫刻する原石の中に隠れている。私たちの仕事は石の中から掘り出すことだ」。番組づくりはその言葉に似ています。今回の発見は、土手に咲く桜の風景から思い出話を連想することができたことでした。

まとめ

映像制作は一つとして同じものではありません。しかし押さえておくべき段取りやセオリーには共通のものが少なくありません。限られた条件の中でもっとも効果的な答えが出せるか否かは経験と蓄積が味方してくれます。

References   [ + ]

1. ここまで書いて思い出した先輩の言葉「番組制作はジャーナルでエターナル」。早く安く旨く(この場合は事実を正確に)を目指しながら、作品として永遠、つまり普遍性を目指せという意味なんですが、北極星を目指して旅をするような思いを感じます