今日はちょっと“現場のリアル”なお話。「編集データをクライアントに渡してはいけない理由と、渡さざるを得ない場合の正しい手」。
動画でもブログでも、納品後に「プロジェクト一式ください」って言われるアレ。気まずいよね。
でも放っておくと自分の首が締まる。ここで判断基準と手順を、初心者さんにも分かるように、感情も込めて、でもプロとしてまとめます。
編集データ は渡すべき?プロが教える解決策
まず前提:「完成品」と「編集データ」は別物
完成品=書き出された動画(mp4/ProRes等)や公開記事の原稿。
編集データ=タイムライン、エフェクト設定、プリセット、プラグイン、テンプレ、スクリプト、フォルダ構成、命名規則、そしてあなたのノウハウそのもの。
ここ、権利と責任が全然違う。
完成品を渡す契約なら、編集データは含まれていないのが基本です。
渡してはいけない主な理由(現場の“痛み”から)
- 知的財産(IP)とノウハウの流出
タイムラインやプリセットは、あなたの“企業秘密”。明日から別の制作会社に同じレシピで再現されちゃう。創作の再利用価値がゼロに。 - プラグイン/フォントのライセンス違反リスク
有償プラグインやフォントは譲渡不可が多い。プロジェクトを開くと警告の嵐→「動かないんだけど?」とサポート地獄。 - 再現性が担保できない
OS/アプリ/プラグイン/カラー管理/ラット…環境差で崩れる。納品後に責任の所在が曖昧になり、果てしない検証対応に。 - セキュリティと肖像・音源の二次利用
素材内にタレントNGカット、仮音源、未許諾の仮写真が入っていることも。丸ごと渡す=危険物輸送。 - 追加作業の無償化“圧”
データを渡すと「ここだけ直して再書き出しお願いします(もちろん無償で)」が発生しやすい。境界線を曖昧にしないのが自衛。 - ブログ原稿も同様
下書き・取材メモ・図版テンプレは“台所”。丸ごと共有すると、構成術ごと持っていかれる。
解決策 クライアントが求める“本当の理由”を見抜く
- 「今後社内で微修正したい」→ 再編集できる納品形態が欲しい
- 「別ベンダーへの引き継ぎ」→ 移行用の交換フォーマットが必要
- 「アーカイブ」→ 素材の整理と書式が欲しい
つまり“プロジェクト一式”じゃなくても目的は満たせることが多い。
渡さずに解決する代替案(まずはこれを提案)
- 再編集用マスター:テロップ/SEなし版、音楽はステム分け、カラー前のベースなど。
- 交換フォーマット:EDL/XML/AAF、Premiere/Resolve向け簡易プロジェクト(効果は焼き込み)。
- ステム書き出し:BGM/VO/SE/本編をWAVで分離、映像はクリーンマスター。
- スタイルガイド:フォント指定、色番号、テロップルール、トランジション秒数。
- サムネpsdの“スマートオブジェクト化”版(フォントは代替に置換)。

先様の目的が「社内で差し替え」なら、差し替えしやすい土台を用意すれば十分です。
ステム書き出し(Stems Export)とは、ひとことで言うと——動画や音楽の「要素ごと(パートごと)」に分けて書き出すことをいいます。つまり、完成音声を“素材のグループ単位”に分解して出すんです。
それでも渡さざるを得ない場合(受注側の防御フロー)
「条件によっては対応可能です」と言えるよう、手順をテンプレ化しておこう。
1) 事前合意(書面)
- 範囲:対象プロジェクト名、バージョン、納品物一覧。
- 権利:編集ファイルは限定使用許諾、再配布・第三者提供禁止。
- 免責:環境差による表示崩れは非保証。
- サポート:インストール/再現サポートは有償・時間上限。
- 料金:データ譲渡料(通常制作費の30〜100%目安)+整備工数。
- ライセンス:フォント/プラグインは同梱不可、代替処理での納品に同意。
2) データの“可搬化”(壊れない形に整える)
- Consolidate:使ってない素材を削除、相対パスに揃える。
- Bake/Render in Place:重いエフェクト・トラッキング・3D・Fusion/AE連携は焼き込み。
- LUT/カラー:LUTファイルは参照先パスを明記。無い場合は近似カーブを書き出し。
- オーディオ:プラグインはプリント(WAV化)、ノーマライズとピーク値をメモに。
- フォント:アウトライン化 or 代替フォントへ置換+差分表を付ける。
- 機密素材:NGテイク、未契約音源、テスト画像は完全削除。
3) 交換用セットも同時に用意
- EDL/XML/AAF(タイムライン交換)
- 低解像度“プロキシ一式”(閲覧・再リンク検証用)
- ステム音声(VO/BGM/SE)
- クリーン版映像(スーパー無し)
- サムネレイヤー書き出し(文字は輪郭化)
4) ドキュメント化(未来の自分を助ける)
- Readme:ソフト/バージョン/OS/フレームレート/カラー管理/納品日。
- フォルダ構成表(/01_footage /02_audio /03_graphics /99_delivery など)
- 変更履歴(v1.3でBGM差し替え 等)
- 既知の制限(このトランジションは焼き込み、など)
5) ハンドオフとサポート
- チェックリストに沿って受け渡し→その場で再リンクテスト。
- サポート窓口:メールのみ/1案件あたり○時間まで/追加は時間単価。
- 保証期間:受領後○日以内の致命的不備のみ対応。
ブログ制作データの扱い(番外だが重要)
- 納品物:公開本文・OG画像・図版(完成物)。
- 非譲渡:取材メモ、構成ラフ、原稿の差分、雛形、キーワード調査表はノウハウ資産。
- 渡す場合は:テンプレ化した空の雛形とスタイルガイドを別料金で。Google Docsは権限閲覧のみが基本。
具体的シーンと現実解
A. 社内でテロップだけ変えたい
- テロップ用モーショングラフィックスをプリレンダ(アルファ付き)。
- 文字はPNG差し替えor MOGRT風の簡易テンプレで。
- フォント非共有で綺麗に回る。
B. 他社へ丸ごと引き継ぐ
- 有償のデータ譲渡契約+整備費。
- プラグインは全て焼き込み、代替が必要なら別見積もり。
- XML/AAF+ステムを必ず添付。責任範囲を明記。
C. 公的機関の要件で「一式提出」
- 個人情報・未許諾素材のマスキング必須。
- プロキシ版の提出が可能か交渉。
- セキュリティ条項&NDAを二重で。
クライアントに角を立てず断る言い回し(そのまま使える)
「編集データは当社の制作ノウハウ・有償プラグインを含むため、原則お渡ししていません。
再編集可能な形での納品(XML/ステム/クリーン版)をご用意できます。目的に合わせた最適な形式をご提案します。」
必要なら
「プロジェクト一式での譲渡も有償で可能です。ライセンスの関係でプラグイン部分は焼き込み処理となります。再現性は環境依存のため、別途サポート契約をご案内します。」
チェックリスト(自分の身を守る最終防壁)
- □ 契約に“完成物のみ納品”と明記
- □ 要望の目的ヒアリング済み
- □ 代替案(XML/ステム/クリーン)を提示
- □ データ譲渡時は範囲・免責・料金・サポートを文書化
- □ 機密/未許諾素材の除去
- □ 焼き込みとドキュメント完了
- □ 受領後の責任範囲を最終確認
まとめ
編集データって、あなたの時間と失敗と工夫の積み重ねです。
「渡さない」はケチじゃない。仕事を継続可能にするためのプロの態度。
それでも渡すなら、条件を整え、価値に対価を、責任は明快に。
これが、あなたとクライアントの関係を長持ちさせる最短ルートです。今日もいい編集を。













こんにちは、フルタニです。放送局で番組作りをしてました。 編集データ は渡すべき?を書きます。