筑波大学でクリエイターをめざす学生さんに映像制作の実技を指導したことがあります。
内容は、放送局の新人が現場で学ぶ初歩の番組作りを下敷きに、企画提案から取材、撮影までの一通りの流れです。
動画の長さは5分。5分という時間内で、人にものを伝える映像を作るという基本を知ってもらおうというのが実技の狙いでした。
そこで気づいたのは、学生さんたちの中に「とにかく動画が作りたい」という人が多かったことです。
情報をわかりやすく人に伝えるのではなく、思い描くイメージをかっこよく表現したいという、趣味の映像制作に近いモチベーションです。
それはそれで、時流にのった動画制作の動機には違いありません。しかし、だとしたらここで学ぶよりも、実際に投稿を始めた方がマネタイズには早道だと思いました。
仕事に使える動画術とは
カッコいい映像を作りたいといってプロモーションビデオを見せてくれた人もいました。
テクニック満載のビデオクリップでしたが、動画制作の目的や届ける相手のことを尋ねるとスッキリした答えは返ってきません。
話を聞くと、相手に伝えるメッセージが固まっていないことがわかりました。どうやら彼は、他人とは違う自分をアピールすれば認められると思い込んでいたようです。
マクルーハンが言ったように「メディアとはメッセージ」です。メッセージをしっかり固め、自分なりの手法を見つけ出すことが自分らしい動画を作る早道です。
この記事では、自分なりの動画表現を簡単にすすめる方法について考えていきます。
初めて動画を触る方へ
動画制作に関心を持つ人が急速に増えています。
一口に動画と言ってもその世界は千差万別です。
例えて言うなら、初めて外国語に興味を持つようなもの。英語で会話ができるようになりたいのにフランス語や韓国語を習っても意味がありません。
動画編集も似たところがあります。クリエイターが作るようなCG映像が作りたいのに映画の編集法を学んでもめざすスキルは手に入りません。手段と目的を間違えるてはならないのです。
動画初心者の方が最初にぶつかる壁が、「編集とコンセプトメイク」です。
プロは必ず伝えるテーマや視点をはじめに決め、撮った映像から必要な映像を抜粋して物語を組み立てます。
コンセプトがないまま動画を作りはじめたとしても、一貫性がない動画は視聴者を混乱させる結果に終わってしまうのです。
動画を学ぶではなく、動画制作を通じて自分はどんな動画制作をめざしたいのかコンセプトを決めておくことが大切です。
コンセプトメイクが超たいせつ
なぜはじめに方向性を決めておくことが大切かと言うと、目的によって作り方が変わります。作り方が変わることは機材や費用、効果に大きく跳ね返ります。
情報系の映像制作では事実をきっちり取材し撮影することが重要です。クリエィター系の動画は取材や撮影をする必要はほとんどありません。その代わりにAfter Effectsなどの技術に精通する必要があります。
ネジを巻くためにドライバーが必要なように、目的にあった作り方をしないと遠回りになります。
好きなことやり続けること
動画を作る上でもっとも大切なことは何でしょうか。それは自分のモチベーションを維持することです。
動画制作は思った以上に時間とリソースを食いつぶします。一般的な30分規模の放送番組でも、企画から完プロまで三ヶ月近くかかります。
その間様々な障害が制作者の前に立ちふさがります。その壁を乗り越える鍵は自分の中にあるやる気しかありません。
自分が伝えたいものとは何か、心の中にある欲求が行動のエネルギーになります。
編集技術やカメラが下手でも、制作者の”伝えたい気持ち”が伝わってくるような動画があります。多分それが究極の映像なのだろうと思います。
対象を絞ること
動画にはどんなジャンルがあるのでしょうか。その世界を知っておくことも大切です。私の場合は情報を伝える動画でしたが、他にも様々な世界があります。
- 出来事の記録
- 映画
- アート作品
- コマーシャル
- プロモーション
- アニメーション
- 教育・講座
- インタビュー
- ニュース
- 投稿動画
- Vlog
- 生放送
- ビデオ会議
それぞれ目的も手法も異なります。基本の構成の型は決まっているのでその世界の流儀を覚えることも習熟する上で必要になります。
「ユーザに好まれる動画」と言う定義についても意見が分かれます。広告を重視する動画では接触するユーザーが多い動画を意味するようですが、内容を重視する動画ではユーザーの心に刺さる動画を言います。
公開するメディアを知ること
次に頭に入れておきたいのは動画を再生する環境です。
例えば放送のようにリビングに置かれた大画面のモニターで不特定多数の人を相手にした動画と、通勤時間の隙間に携帯端末でチラ見する動画とは自ずと作り方が変わります。
大画面でも映画館のように観客が長時間視聴する動画もあれば、街角のサイネージのように数フレームしか見てもらえない動画もあります。
明石ガクトさんが言う「動画2.0」の主役は正方形もしくは縦長の16:9画面。インスタグラムのように携帯端末で見やすい縦画面で作品を作るためには、一般的な撮影機材では手間がかかります。
道具の知識を知ること
動画制作にかかる基本の環境。撮影機材や編集などのポスプロ環境も頭に入れておく必要があります。
講座や対談などゲストが動かずにトーク中心で展開する内容であれば、映像がブレずにしっかり音が録れるような機材環境を用意する必要があります。三脚やマイクは必需品。照明機材もいるかもしれません。リポーターが街中を歩きながらリポートする動画ではカメラを据え付ける三脚の出番は無くなります。マイクも対象の動きに合わせやすいブームマイクの出番です。
TikTokなど縦長の画面が活躍する携帯動画では、それに合わせた撮影機材が必要になります。横長で撮影した動画も編集で縦に画角を切り取れないと始まりません。
最終的に出来上がる動画のイメージから逆算して制作環境や工程を目配りする能力も必要になります。
まずは手を動かしてみる
自分なりの動画表現を簡単にすすめるためには人の作品を見ることをお勧めします。人の作品を見ることで、自分が表現したいものの正体が明らかになるからです。
理想とする動画が見つかったら、その動画の作り方や構成を分析して行きましょう。自分自身が制作者になったつもりで撮影の段取りや必要とする機材環境などを組み立てていきます。
組み立てる際に大切なのは、答えを一つに決めつけないことです。動画とはその特性から並べ方によって受け取る印象が大きく変わります。[1]わかりやすいのがモンタージュ効果です必要な映像をどう集めたらいいか。どの順番で並べるのがベストなのか。時間の許す限り検討を重ねましょう。
紙に書いてみる
映画やアニメの世界では撮影前に必ず作られるのが絵コンテです。テレビ番組では絵コンテではなく構成表というものを書きます。
絵コンテや構成表の役割は、全体のバランスを見ること。そして制作に関わる全ての人に制作者の意図を伝え、第三者としての意見を受け取ることです。
映像とシーン、コメントを紙に書いて見せることで予行演習をするようなものです。筋が通らない展開が見つかったら全員の意見を元に修正できると言うメリットもあります。
企画を思いついてから実際に撮影に入るまで、可能な限り検討を重ねることの中から、制作者が当初見つけられなかったメッセージが見えてくることがあります。
メッセージが見えてきたら動画制作の峠を越えることができたと思って間違いありません。
編集の壁
動画初心者の方が最初にぶつかる壁が、「編集とコンセプトメイク」と冒頭でコメントしました。
編集については編集ソフトの扱い方に蹟かれるケースが多いと思います。編集ソフトは道具ですので仕組みを知り、使い方を体で覚えるのが早道です。
解決策についてはこのブログで折に触れ説明していますので参照ください。
構成が固まったあとは、構成を軸に日程を組み立てます。撮影、編集、ポスプロと締め切りを設定します。クリエイター系の動画制作の場合は撮影、編集の代わりに作画が入ります。
制作日程を縛ることで工程を管理するのも品質向上の秘訣です。私の場合は、とにかく編集を数こなす中から必要なスキルを学んでいきました。
なぜなら、たまにしか必要としないスキルを身につけるより、発生する頻度が高い課題を解決する技術を身につけた方が達成感がある上に、コスパがいいからです。
まとめ
使い古された言葉ではありますが、継続は力です。
細かな作業を積み重ねていると、ある時偶然のきっかけで視界が開けることがあります。視界の広がりはそれまで積み重ねた時間と作業量に比例します。好きなことをやり続けることの意味がその時わかる気がします。
References
↑1 | わかりやすいのがモンタージュ効果です |
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こんにちは、フルタニです。放送局で番組作りをしてました。 動画制作の知恵 を書きます。