ドキュメンタリー映像を作りたい人にお勧めする書籍を紹介します。
白石晃士「 フェイクドキュメンタリー の教科書」
同期入社の元ディレクターと話をする機会がありました。
昔話に花が咲いた合間に試しに聞いてみたのが本の話。
書店に並んでいる映像理論の本や編集テクニックの本。
皆いっぱしのプロなので関心があるかと期待したのですが、答えは裏切られました。
プロは映像理論に興味などない
映像作品を毎日のように扱っていると、理屈よりも現実の面白さに興味が写ってしまうのでしょう。
皆口を揃えていうのは「本を読むなら古典だ」ということに落ち着きました。
放送の世界も含め、技術が絡む仕事の世界は日進月歩。
今最先端の技術もしばらくすると陳腐化して見向きもされないという事例は掃いて捨てるほどあります。
ですから、今必要な技術があったとしたらとりあえず自分に関係あるところは習熟するけれど、それ以外はスルー。
むしろ必要なのは大局をつかむことだという姿勢なのかもしれません。
映像はどこに向かうのか
放送に軸足を置いてきた立場上、放送の行方に少なからず興味はあります。
NHKは放送という看板を通信という色を鮮明に押し出した”メディア”に架け替えるのだそうですが、その放送を担う放送業界の関係者全てがその意味を理解しているとは到底思えません。
変化のスピードはまだ実感できませんが、5Gの時代が来る数年後には世界の変化が体感できるようになると思います。
その変化の中心になるのが携帯端末を中核にした個人の情報発信であり、個人に向けた動画サービスになることは間違いありません。
なぜなら、人が使える時間は限られているからです。
自宅にいる数時間しか視聴する機会のないテレビ受像機と、肌身離さず持ち歩く携帯端末は、接触時間の長さからしても比較になりません。
それでも続ける大艦巨砲主義
放送を取り巻く技術の行方を知るには格好な場所があります。
東京。世田谷にあるNHK放送技術研究所です。ここでは放送と放送にかかわる様々な技術開発を行なっていて、毎年5月下旬に一般公開されます。
今、いちばん力を入れている技術を総力あげて展示発表するイベントなので、正直優等生の発表会のようなものです。
ただ、面白いことは何回も通うと見えてくるトレンドの移り変わりです。
華々しい未来像を提示したもののいつの間にか消えてしまった技術に注目すると、今ある技術の行く末もそれほど安泰と言い切れないことが透けて見えてきます。
ハイブリッドキャストとか、スリーディ放送なんてどこに行ってしまったのでしょう。
ひょっとしたら8Kのような超大型スクリーン放送だって人ごととは言えないかもしれません。
リアルとフェイクはコインの裏表
今のような放送局が号令一下映像を送り出す仕組みは先が見えています。
地盤沈下を続けること、それと同時にネットや個人発の映像がますます存在感を発揮するだろうということです。
鍵を握るのは信頼性に尽きるでしょう。
これは中国社会が実証実験を続けています。放送局は信頼性を拠り所として生き続けるはずです。
では信頼性とは何か。これまでの時代は、放送局が抱えてきた人材がその保証をしてきたわけです。
しかし、これから先、映像コンテンツの争奪戦が人材の育成を阻むことは間違いないでしょう。
力のある作り手が放送局にとどまる理由がなくなるからです。
ネットと通信が融合する社会は今まで消費者でもある視聴者が抱いていた不満を解決する明るい面があります。
信頼性を誰がどのように担保するのかという課題もあります。
コインの裏表ということを忘れてはならない気がします。
白石晃士「フェイクドキュメンタリーの教科書 リアリティのある“嘘”を描く映画表現 その歴史と撮影テクニック」