動画制作において、撮影中に人の顔やキャラクター、商標などが意図せず映り込むことがあります。これらの「写り込み」が権利問題を引き起こすことがあり、トラブルを未然に防ぐために、事前の理解と対策が必要です。具体例を挙げながら、よくあるトラブルと判断の基準を解説します。
1. 肖像権の侵害
例:動画に街中で撮影された人物が映り込んだ場合、その映像が許可なく商業利用されると、肖像権の侵害にあたる可能性があります。特に、特定の人物が容易に識別できる場合、事前に許可(モデルリリース)を得ていないと問題が発生します。
• 対応策:公共の場であっても、個人が明確に特定される場合には、事前に撮影許可を得るか、編集段階でモザイク処理を行うことが一般的です。
2. キャラクターや著作物の映り込み
例:飲食店のロケで、特定のアニメキャラクターが描かれたポスターが映り込んだ場合、キャラクターの著作権を持つ会社から権利侵害を指摘されることがあります。著作権で保護されたキャラクターや絵画などが映ると、著作権者の許可が必要です。
• 対応策:著作物が意図せず映り込む場合は、編集で除去するか、権利者に許諾を得る必要があります。例外として、映り込みが「著作権法第30条の2」で認められる「付随対象著作物」の場合、許可を取らずに利用可能なこともありますが、慎重な判断が求められます。
付随対象著作物(ふずいこうたいちょさくぶつ)とは、元の著作物に依存しているが、それ自体は独自の著作権を持つ作品のことを指します。これには、元の作品から派生したり、変形させたりしたものが含まれますが、元の作品が著作権で保護されている場合、その使用には制限が生じることがあります。
具体例
1. 翻訳作品: ある本を別の言語に翻訳した場合、その翻訳は付随対象著作物です。元の著作物の著作権が存続している限り、翻訳者は元の著作物の権利者から許可を得る必要があります。
2. 映像作品のリメイク: 映画や小説を元にした新たな映画や舞台も付随対象著作物です。リメイクや改変する際は、元の著作権者の権利を尊重しなければなりません。
3. キャラクターの二次創作: 人気キャラクターを使ったファンアートや同人誌もこれに該当します。元のキャラクターに関する著作権が有効な限り、作成者は権利者からの許可が必要となります。
3. 商標権の侵害
例:撮影中にブランドのロゴや製品が映り込むことがあります。特定のロゴや商標が見える形で映像に使用され、そのブランドと誤認される恐れがある場合、商標権の侵害が問題となります。
• 対応策:商標が映り込んだ際には、編集で隠すか、特定の商品やロゴが登場する場合は、関連する企業から使用許可を得ることが推奨されます。特に動画の内容が商業的利用に該当する場合は要注意です。
4. プライバシーの侵害
例:イベントや集会の撮影で、多くの人が映り込んだ場合、それがプライバシーの侵害として問題となることがあります。特に、意図せず撮影された映像がオンラインに公開され、特定の個人のプライバシーが脅かされる可能性があります。
プライバシーの侵害に関して、撮影だけをして公開しない場合、一般的に「公開していないので権利侵害には当たらない」と思われることがありますが、実際には必ずしもそうではありません。プライバシーの権利は、個人の私生活や顔、私有財産などが不当な侵害を受けないことを保護するもので、**「撮影そのもの」**が侵害と見なされる場合もあります。以下の点に注意が必要です。
1. プライバシーの権利
プライバシー権は「知られたくないことを他人に知られない権利」とされます。これは撮影された個人が自分の顔や私的な生活の一部を撮影されること自体に不快感や損害を感じるケースがあるためです。撮影者が公開しなくても、その行為自体がプライバシー侵害に当たることがあります。
例えば、以下のような場合です:
• 個人の私有地や家庭内の様子が許可なく撮影された場合
• 盗撮や隠し撮りといった不正な方法で撮影が行われた場合
2. 盗撮や許可のない撮影
公共の場所でも、特定の人を意図的に撮影し、それが個人のプライバシーを侵害する形になる場合は、違法とされる可能性があります。たとえば、盗撮はたとえ映像が公開されていなくても、その撮影行為自体が犯罪とされます。
3. 撮影データの扱い
撮影したデータが公開されていなくても、第三者に共有したり、不適切に使用する可能性がある場合には、プライバシー侵害と見なされるリスクがあります。デジタルデータは簡単に共有できるため、撮影したものを他人に渡すことでトラブルが発生することもあります。
4. プライバシー権の保護強化
近年、プライバシーに関する法規制は強化されつつあり、撮影そのものに関しても厳しい基準が設けられる場合があります。各国や地域の法律によっては、特定の状況では撮影するだけであっても許可が必要な場合があります。
• 対応策:不特定多数の人が映り込む可能性がある場合、撮影前に告知を行い、映り込みを避ける配慮が必要です。また、動画内で個人が特定できる場合には、モザイクやぼかし処理を施すことが一般的です。
撮影を行っても公開しない場合でも、特定の状況ではプライバシー侵害とみなされる可能性があります。特に許可を得ていない人物や私的な空間を撮影する場合は、その撮影行為自体が問題になることがあります。撮影前に適切な許可を得るか、プライバシー保護の観点を十分に考慮することが重要です。
5. 建物や美術作品の映り込み
有名な建物や彫刻などが映り込む場合、その所有者や作者から使用許可を求められるケースがあります。特に著作権で保護されている建物や美術作品の映像を商業利用すると、著作権侵害となる可能性があります。
公道から撮影できる建築物に関しては、一般的に権利侵害には当たらないとされています。これは日本の著作権法第46条で定められた「建築物の著作物」に基づいており、公道などの公共の場所から目に見える建築物に関しては、自由に写真や映像に撮影しても著作権侵害にはなりません。
しかし、このルールにはいくつかの注意点があります:
1. 商業利用の場合の配慮
商業目的で使用する場合、著作権者や関係者からクレームが入るリスクがあります。たとえば、広告や商品プロモーションに特定の建物を使用する場合、建物の所有者やデザイン権利者との交渉が必要になることがあります。
2. 建物の内部や私有地の場合
建物の内部や私有地に関しては、別途撮影許可が必要です。例えば、公共の場から建物の外観を撮影することは問題ない場合でも、建物の内部を撮影する際は施設の管理者の許可を取る必要があります。
3. 特定のデザインやアートワーク
建築物の外観が現代アートや特別なデザインであった場合、そのデザイン自体が著作権で保護されている可能性があります。たとえば、有名な彫刻や壁画が建物の一部として存在する場合、そのアート作品に対しての著作権が関わる可能性があります。
4. プライバシーや肖像権の問題
また、公道から撮影できる建物の周囲に人が写り込んだ場合、その人の肖像権やプライバシーが関わるため、許可が必要な場合があります。
• 対応策:公共の建物や作品でも、意図的に映り込む場合には権利者の許可が必要です。美術館や展示場内での撮影は、一般的に厳しい制限が設けられているため、事前に撮影のルールを確認しましょう。
まとめ
写り込みによるトラブルを防ぐためには、事前に適切な許可を得たり、編集で配慮をしたりすることが大切です。
肖像権や著作権、商標権のトラブルは、特に動画制作においては重大な問題となることが多いため、権利に関する基本的な知識を持っておくことが重要です。
また、撮影前に関係者と綿密に打ち合わせし、必要に応じて法的なアドバイスを受けることも推奨されます。
こんにちは、フルタニです。放送局で番組作りをしてました。 写り込み を書きます。