放送局の仕事を辞めフリーランスで映像制作を始めて感じたメリットは「自分の好き」を仕事にできること。
報酬の問題はありますが、嫌な仕事は断れるという自由さです。
自分のスキルと仕事の質は等価交換できるのがフリーランスの特徴です。つまり「やりがい」を自分自身が決めることができるのです。
これは組織で仕事をしている時には、見えているようでいて見えていなかった幸せだと改めて思います。
映像業界とやりがい搾取
「映像産業はブラックだ」と言われます。それは組織を離れてみるとよくわかります。
映像業界がなぜブラックだといわれるのか。その背景にあるのは「好きな仕事だから断れない」という意識があるからだと私は思います。
取材先からアポをとるため電話やメールを際限なくかけまくったり、決定的な映像を撮るため違法行為すれすれの撮影を行ったり、望んでもいないのに「中の人」として出演させられたり。
よく考えてみると、すべてハラスメントに近い仕事に見えます。
しかし、働く側は「好きで選んだ仕事」だから断ることができません。
ハラスメントは業界の下請け構造と経営側の意識によるものです。
経営者が支払うべき賃金や手当の代わりに、労働者に「やりがい」を強く意識させることにより、本来支払うべき賃金(および割増賃金)の支払いを免れる行為が目立ちます。
やりがい搾取にあわないためにどうしたらいいでしょうか。
残業代請求サポートセンター(NPO法人POSSE)に寄せられた実例をもとに考えます。
ADの過酷な業務
番組制作の現場で働くAさんの仕事は補助業務、つまりアシスタントディレクターADです。ADの仕事は撮影の準備段階では素材集めや台本の資料を作成をすること。さらに収録では機材の準備や撮影のサポートから出演者のお出迎え・お見送り、食事の準備などの雑用を任されます。
仕事によってはAP(アシスタントプロデューサー)呼ばれることもありますが扱いは同じです。
労働時間は、平均すると1日12時間。番組の収録があるときは、早朝から深夜までかかります。スタジオ収録の場合はゲストのスケジュールや撮れ高。外ロケの場合は天候の都合などで不規則。待ち時間と言う名前の拘束時間が積み上がります。
会社に機材を持って帰って映像チェック、段取りの確認を終えると終電になることも少なくありません。タクシーで帰宅もできた時代ははるか昔のことです。経費削減から当然、休憩もほとんど取れることはありません。
特に、締切前は激務です。荒編、試写、試写、試写・・・とOKが出るまで編集作業はエンドレス。始発で家に帰ってシャワーを浴びてまた出勤をする日々がくりかえされます。積み重なった拘束時間は最長で150時間。しかし、残業代は払われませんでした。
なぜ残業代が払われなかったかと言うと、Aさんの雇用契約は裁量労働制だったのです。Aさんは、最終的には過労から精神疾患を発症してしまい、休職後退職に追い込まれてしまったと言います。
裁量労働制の問題点
映像業界の過重労働を促進しているのが「裁量労働制」という法制度です。
裁量労働制とは、上司から直接の指示を受けることなく、自律的に働く労働者に適用される特別な制度です。
残業代は「みなし」として一定額が基本給に加算されます。
この制度によって支えられているのがニュース取材の業務です。
具体的には、NHKで記者職に導入した「専門業務型裁量労働制」があります。
事件事故報道や夜討ち朝駆けのサツ回りなど、状況に合わせざるを得ない職種に限って認められた特例です。[1]2017年、記者の佐戸未和さんの過労死を受け労働基準監督署から「適切な水準で労働時間を設定すること」とする指導票を受けました
ところが放送の現場で働くのは記者だけではありません。生中継や特集企画など記者のように働く現場との釣り合いも取る必要があります。そうした背景の中で 裁量労働制は拡大解釈されていったのです。
裁量労働制の拡大解釈
番組制作現場で働くAさんも「裁量労働制」が適用されていました。残業代は「みなし」とされ、長時間労働を強いられていました。
記者の仕事と違うのは、業務の指示が上から降ってくることです。
しかし、記者と違うのは本人は仕事の「業務量」も「業務内容」もコントロールできません。
納期や番組内容の変更も指示に従わなければならない点では「歯車」です。
末端の歯車的役割を背負うADに対し、「裁量労働制」を適用するには無理がありすぎるのです。
では「みなし」とされた賃金の不足分は請求できるのでしょうか。
整理してみましょう。
1、裁量労働制が適用できる業務は、厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められています。
2、対象となる業務は、その性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある特別な業務に限られています。
3、映像制作会社で働く労働者は、このうちの「放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務」に分類されている。
4、さらに、「放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務」にはより詳細な規定がある。規定によれば、映像業界のADには裁量労働制ができそうに見えますが、裁量労働制が有効とされるためには、要件を全て満たす必要があるのです。
制作現場の構造上、プロデューサーやディレクターのさらに下にいるAD・アシスタントディレクターは業務内容はもちろん、対象業務にも挙げられていないため、裁量労働制の適用はさらに困難と考えられています。
以上からいえるように、裁量労働や固定残業代の事例は違法なケースがほとんどで、未払い賃金は支払いを請求することができるのです。
コンプライアンスが問われる映像業界
古い体質をもつ映像業界は時代の変化に対応するよう求められています。
その変化の一つが2022年春から実施された、ハラスメント相談窓口設置の義務化です。
2020年6月1日、改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の施行に伴いハラスメント防止対策が強化されたもので、ハラスメント相談窓口の設置義務を怠ると法律違反の対象となります。
さらに厚生労働大臣からの勧告や企業名の公表といった社会的制裁措置の可能性があります。
働く人の意欲に付け込んだ「やりがい搾取」や、個人の尊厳や働く意識をないがしろにするような仕事の強要などは当然やり玉に上がるでしょう。
「労働トラブル相談士」及び「人事業務主任士」という新しい資格
世の中的にはあまり語られることがないですが、私はこれからの映像業界で生きていくためには働き方の知識を身に付けることが必須だと思います。
そんなときお勧めの資格があります。
「労働トラブル相談士」及び「人事業務主任士」資格 です。
これは、企業や団体で生じたハラスメント問題に関して被害者・加害者双方に適切な対応ができ解決に導く知識とスキルを持ち、ハラスメント問題対応の実務に精通していることを証明できる資格です。
基本的に人が足りていない業界なので、二つの資格を身につけているだけで人事考課やクライアント獲得などで有利に働くことが期待できます。
会社としても法に則り職場の改善を目指すことが信用を手放すことなく優秀な人材を確保できることに繋がります。
「映像業界で働きつつ、学びつつ、映像業界でかけているルールや知識をサポートする」みたいな感じです。
興味のある方は「労働トラブル相談士」及び「人事業務主任士」資格の公式認定講座を学んでみてはいかがでしょうか。
「労働トラブル相談士」及び「人事業務主任士」資格の公式認定講座はこちらこんな人におすすめ
●ハラスメント相談員未設置の中小企業
●現在ブラック企業に就業している会社員
基本ビデオを見るだけで三級認定を受けることができます。筆記試験は二級から。一級の認定を受けると現実のトラブルに対して、未然に防ぐ手段、解決までのプロセスなどを具体的に提案することができるようになります。
独立して稼げる動画クリエイターを目指すなら映像制作と実務案件を通して学べるスクールがありますReferences
↑1 | 2017年、記者の佐戸未和さんの過労死を受け労働基準監督署から「適切な水準で労働時間を設定すること」とする指導票を受けました |
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